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こちらのページでは,沖野研の技術トピックスをご紹介しています。その他の技術や研究成果は,沖野研公開資料「大気圧プラズマ装置の開発と高度利用」をご覧下さい。
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接着性強化・コーティング・殺菌/ウイルス不活化のための
シャワーヘッド型マルチガスプラズマ装置

プラズマを生成するためのガスの種類を変えると,その中で生成される活性種の種類や量が変わりますので,処理の効果も大きく変わります。プラズマ応用には,それぞれの目的に適した活性種があり,プラズマを生成するガスの種類や混合比を適切に決める必要があります。そこで我々の研究室では,様々なガスでプラズマを生成できる「マルチガス」を重要なキーワードとして装置を開発しています。従来のマルチガスプラズマジェット装置では,直径1mm程度のプラズマ射出口でしたので,処理できる面積が小さく,広い面積の処理のためにはプラズマを二次元的に走査する必要がありました。

そこで,平面のプラズマ照射が可能なシャワーヘッド型マルチガスプラズマ装置を開発しました。試作装置では直径40mm程度の範囲を一度にプラズマ処理することができます。プラズマ照射部は小さいプラズマ射出口を多数持つ,シャワーヘッド状の構造になっています。もちろん,様々なガスを使用することができる,マルチガス仕様です。照射面積はもっと拡大することができますし,用途に応じて様々な形状に設計する事も可能です。


        
シャワーヘッド形状のプラズマヘッド          試作機初号機外観


マルチガスプラズマ生成を実現


以前に開発した,335mmリニア型装置
(マルチガス対応ではないが,高周波高密度プラズマによる高速処理が可能)


循環型プラズマ処理/気流制御/のための
マルチ電極プラズマアクチュエータ

沖野研究室では,大気圧プラズマを用いたウイルス不活化や殺菌の研究を行っています。これまでの実験により,新型コロナウィルスや黄色ブドウ球菌等の消毒耐性の低いウイルスや細菌には長寿命の活性種でも十分に有効であることが明らかになってきました。そこで,プラズマ中で生成した長寿命活性種を再利用して消毒能力を高める,循環型プラズマ処理の研究を開始しました。しかし,高濃度の活性種を含む気体を循環させるためのポンプが必要です。沖野研では,多段化したプラズマアクチュエータを開発し,例えば循環ポンプとして使用するための実験を行っています。

プラズマアクチュエータで生成できる気流は大きくありませんので,直列に配置する事で流量を大きくする検討を行っています。下の写真はプリント基板で試作したマルチ電極プラズマアクチュエータです。プリント基板の製作法を使用する事で,自由かつ精密な設計や,誘電体材質の選定が可能になります。柔軟性のあるシートで作成すれば,曲面状のプラズマも生成可能です。もちろん,この装置や手法は通常の気流制御にも使用できます。今後は,電極の配置や形状を工夫することで気流や活性種の生成量を改善しようと考えています。



プリント基板上に作成した多段型プラズマアクチュエータ


一つの細胞,粒子,微小液滴をプラズマ中に精密に導入するための
ドロプレット試料導入法


通常,プラズマに液体を導入する場合,噴霧,霧化,気化などの方法を使用します。これらの方法は,多量の液体の導入には適していますが,ごく微量な液体の導入には向いていません。我々は,直径数10ミクロンの微小液滴を,一滴ずつプラズマ中に導入する方法を開発しました。この手法では,ドロプレットの射出タイミングをディジタル的に制御できますので,ごく微少量の液体を精密にプラズマ中に導入できます。

さらに,この液滴中に一つの細胞やナノ粒子などを封入して高温プラズマに導入して発光分光分析や質量分析することで,それらの中に含まれるごく微量な金属などの元素を測定する装置を開発しています。現在までに,液滴の水分を除去してプラズマへの負荷を低減したり,細胞からの短時間の信号を高いS/Nで測定する方法などを開発し,一細胞中のアトグラムレベルの微量元素を測定することに成功しています。この装置が完成すれば,がんやアルツハイマーなどの疾病の原因究明,iPS細胞の高精度な分化誘導など,基礎医学などの分野に大きく貢献できると考えています。



ピエゾ素子を用いて微小な液滴(ドロプレット)を射出する


特定の細胞や微小粒子をドロプレットに封入してプラズマ中に導入し,微量元素を超高感度で分析


関連文献:
Yukiko Ishihara, Mari Aida, Akito Nomura, Hidekazu Miyahara, Akiko Hokura and Akitoshi Okino, Development of Desolvation System for Single Cell Analysis Using Droplet Injection Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy, Analytical Sciences, 31, 8, pp.781-785 (2015). ほか


ウイルスの不活化・殺菌・表面処理・農業・液体処理のため
マルチガスプラズマバブリング/プラズマバブル水

プラズマを液体に照射するとプラズマ中の活性種が液中に導入され,殺菌や水処理が可能になります。プラズマを生成するガスの種類を変えると,生成される活性種の種類や量が変わりますので,処理の効果も大きく変わります。通常はプラズマを液体の上部から照射することが多いのですが,プラズマが空気と接触するため,空気中の酸素や窒素が活性化されて導入されます。また,液中の放電では,水に関連した活性種しか精製されません。この手法では,様々なガスで生成したプラズマを液中に直接バブリング導入する方法を用いています。この方法では,空気の影響を排除しつつ,狙った活性種を大量に液中に導入できます。

プラズマバブリングによるウィルスの不活化も可能です。
10分間のプラズマバブリングで,エンベロープのあるコロナウイルスよりも薬剤抵抗性が強い,アデノウイルスを99%不活化することに成功しています。

バブリング導入または液体と反応して精製された活性種は,しばらくの間,液中に残留しています。この間,その液体は各種の処理効果や殺菌効果を保持しています。この活性種をバブリング導入した水を,我々はプラズマバブル水(Plasma Bubbled-up Water; PBW)と呼んでいます。プラズマガスだけでなく,液体の種類を変えることでも,活性種の種類を変えることができます。殺菌などの効果は活性種の寿命でなくなってもとの液体に戻りますので,環境適合性や安全性の高い液体としての応用が期待できます。さらに,活性種の量や寿命はプラズマや液体の温度でコントロールする事もできます。



各種ガスのプラズマを直接水中にバブリング


多孔質フィルタを用いた高効率バブリング


プラズマバブリングによる水耕栽培実験


大流量のガスをプラズマ処理するための
大面積/多層型マルチガスバリア放電


プラズマ中には高密度な活性種や電子が存在するため,空気中の地球温暖化ガスや有害化学物質を分解/無害化したり,浮遊菌やウイルスを殺菌/不活化することができます。我々は,様々なガスで大面積のプラズマを生成でき,かつ数L/minではなく,数1,000/minのガス処理を指向したプラズマ装置の開発を進めています。

また,この装置は各種物質の大面積表面処理にも使用可能です。その際,紫外線や赤外線を併用することで,プラズマとの相互作用を利用する事ができます。(特許出願済)


様々なガスで大面積のプラズマを生成して実験中
Photo by 初代DBD柱

 


生体付着物/生体内薬剤等の高感度分析
レーザーとプラズマを用いた微少量物質の非接触質量分析

プラズマを物質表面に照射すると,表面に付着した物質は脱離され,表面がクリーニングされます。我々は,これを分析装置に導入して分析する手法を開発しました。低温プラズマを使用することで,生体皮膚などの熱に弱い表面の分析にも使用できます。従来のレーザーを用いた方法は生体には適用困難であり,物質が分解されてフラグメントと言われる物質の断片の信号が得られていましたが,この方法では低温プラズマで付着物の分解を抑えながらソフトに脱離し,ソフトにイオン化できるので,表面に付着した物質をそのままの質量のシンプルなスペクトルで高感度に分析できます。例えば,下のように皮膚表面に適用すると,汗や化粧品中の成分をfmolの検出下限で分析する事が可能です。さらに,ごく弱いレーザーを表面に照射して表面付着物を脱離させ,低温プラズマ中で生成したプロトンで脱離物の分子を破壊することなくソフトにイオン化し,質量分析する方法を考案して装置の試作に成功しました。今後は,レーザーを2次元的にスキャンすることで,これまでは困難であった生体表面付着物の非接触・非破壊マッピング分析装置を開発します。装置の開発後は,皮膚への薬剤の残留・浸透やナノ粒子の透過などの調査を実施する予定です。


汗や化粧品の成分を非接触かつ安全に分析できる装置を開発中です


関連文献:
Takahiro Iwai, Ken Kakegawa, Mari Aida, Hisayuki Nagashima, Tomoki Nagoya, Mieko Kanamori-Kataoka, Hidekazu Miyahara, Yasuo Seto and Akitoshi Okino, Development of a Gas-Cylinder-Free Plasma Desorption/Ionization System for On-Site Detection of Chemical Warfare Agents, Analytical Chemistry, 87, 11, pp.5707−5715 (2015). ほか


医療,農業,生命科学,材料分野の研究/応用に最適
3Dプリンタで作成した,マルチガス温度制御プラズマジェット

我々は,零下から高温までプラズマの温度を制御する特許を保有しています。この新しいマルチガス温度制御プラズマジェットでは,この温度制御と,我々のもう一つのオリジナリティである,マルチガスプラズマ生成を両立しています。窒素,酸素,二酸化炭素,空気,ヘリウム,アルゴンなどのプラズマを所望の温度で生成する事が可能です。つまり,それぞれの処理に最適なガス種で,最適な温度のプラズマを生成できます。このため,各種の基礎研究に最適な装置になっています。さらに,温度制御が重要となる,医療や生命科学などの研究や応用に適した技術/装置となります。なお,このプラズマ装置は複雑な構造であるため,設計には3D CADを,製作には金属の3Dプリンタを使用する事で我々の従来装置よりも精密な温度制御を実現しています。


3D CADで設計し,金属の3Dプリンタで製作しました


零下のプラズマも生成可能です


関連文献:
Yuma Suenaga, Toshihiro Takamatsu, Toshiki Aizawa, Shohei Moriya, Yuriko Matsumura, Atsuo Iwasawa, Akitoshi Okino, Influence of Controlling Plasma Gas Species and Temperature on Reactive Species and Bactericidal Effect of the Plasma, Applied Sciences, 11, 24, 11674 (2021).【click here】
Yuma Suenaga, Toshihiro Takamatsu, Toshiki Aizawa, Shohei Moriya, Yuriko Matsumura, Atsuo Iwasawa, Akitoshi Okino, Plasma Gas Temperature Control Performance of Metal 3D-Printed Multi-gas Temperature-controllable Plasma Jet, Applied Sciences, 11, 24, 11686 (2022).【click here】


遠距離の表面処理,高速表面処理のための
超音速大気圧プラズマジェット


表面処理効果はプラズマ中で生成された活性種が処理対象表面と反応することで現れますが,活性種は生成した直後から短時間で減少します。このため,従来のリモートプラズマは数mm程度の近距離の処理対象しか有効に処理できませんでした。 そこで我々は,低速のガス流で生成した高密度なプラズマを,超音速のパルスジェットで処理対象に高速に輸送する,大気圧プラズマジェットを考案し,開発しました。
プラズマの噴出速度を調べるため,シュリーレン法を用いて各ガス種のパルスプラズマジェットの流速を測定した結果,窒素,二酸化炭素,空気,アルゴン,ヘリウムプラズマで超音速由来のショックダイヤモンドと呼ばれる衝撃波を観測しました。ショックダイヤモンドの形状から求めた流速はマッハ1.6〜1.7でした。この装置により,従来の大気圧プラズマジェットでは実現できなかった距離の表面処理(親水化処理,接着性の向上,止血処理)を実現しました。この手法/装置は, 工場での接着前プラズマ処理などに有効であると考えています。


シュリーレン法による超音速流計測


パルスプラズマジェット生成部



品種改良・開花時期制御・ゲノム編集のための
プラズマ照射による植物細胞へのタンパク質/DNA/RNA導入

農研機構と共同で,大気圧低温プラズマを用いて植物細胞にタンパク質を導入することに成功しました。上記のマルチガス温度制御プラズマを用いて室温以下に制御された二酸化炭素または窒素のプラズマをタバコ葉に数秒間照射した後,タンパク質を含む溶液に浸すと,タンパク質がタバコ葉の細胞内に入ることを確認しました。シロイヌナズナの葉とイネの根の細胞にも同様の方法でタンパク質を導入できています。 この技術は植物に特別な前処理をする必要がないので,前処理の問題からこれまでタンパク質導入が不可能であった植物種や組織にも広く利用できます。また,導入するタンパク質自体にも特別な処理が不必要なので,実際の栽培環境で使用できまる。今後は,ゲノム編集による品種改良,開花誘導タンパク質による開花コントロール,植物の機能コントロールなどへの展開を準備しています。


シロイヌナズナへのたんぱく質導入

関連文献:
Yuki Yanagawa, Hiroaki Kawano, Tomohiro Kobayashi, Hidekazu Miyahara, Akitoshi Okino and Ichiro Mitsuhara, Direct protein introduction into plant cells using a multi-gas plasma jet, PLOS ONE, 2, 12, e0171942 (2017).